飯塚簡易裁判所 昭和38年(ハ)104号 判決 1963年7月22日
原告 新光車輛販売株式会社
右代表者代表取締役 藤田嘉久
右訴訟代理人 藤瀬康衛
被告 明星寅男
主文
被告は原告に対し金七万四四一九円及びこれに対する昭和三八年六月一六日以降右支払済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第一項にかぎり原告において金二万円を供託することを条件に仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
証人高杢八郎の証言により真正に成立したものと認める甲第一乃至第八号証によれば被告が昭和三七年四月二八日原告に対し原告主張の約束手形八通(尤も(一)の手形の支払期日は原告の主張と異り昭和二七年五月三〇日であることは甲第一号証の記載に徴し明らかである。)を振出し、原告が現に所持することが認められる。
ところで(一)の手形は振出日より前の日を支払期日として記載したものであるから、その効力について考えてみる。支払期日は手形の呈示支払等の基準となる日であるから、不能の日であつてはならず振出日より前の日を支払期日として記載した手形は一般にこれを無効と解すべきである。しかしながら、振出人としては振出日より後の日を支払期日として記載する意思であつたのが、不注意で振出日より前の日を支払期日として記載してしまつたことが他の資料から明らかな場合には、振出人と受取人との間では振出人の真意に従つて右記載を補充解釈し手形を有効なものとして取扱う余地もあるものと解する。
本件につきこれをみるに、右甲第一乃至第八号証、証人高杢八郎の証言を綜合すれば、被告は、昭和三七年四月二八日、原告会社において、原告に対する修理代金債務金七万四四一九円の支払方法について協議した結果、分割支払の約束ができ、その際被告において原告に対し振出交付したのが本件(一)乃至(八)の各手形であることが認められ、右事実と(二)乃至(八)の手形の支払期日の記載と(一)の手形の支払期日の記載とを対比して考えれば、被告が(一)の手形の支払期日を昭和二七年五月三〇日と記載したのは昭和三七年五月三〇日と記載すべきところを誤記したものであることが明白である。従つて、本件(一)の手形の支払期日は少くとも原被告間においてはこれを昭和三七年五月三〇日と記載されたものと解して処理すべきものであつて、これを無効と解すべきではない。
してみれば、原告の本訴請求はすべて正当であつてこれを認容し(本件訴状は昭和三六年六月一日公示送達のため当庁掲示場に掲示されたことは記録上明らかであるから同年同月一五日その効力を生じたものである。)、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用の上主文のとおり判決する。
(裁判官 片山欽司)